経済学者による精神論
「『諦念』こそを克服せよ/若田部昌澄(早稲田大学教授)」(VOICE12月号)
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20101124-02-1401.html
そういう趣旨の雑誌であり、氏の政治的な立ち位置もあって致し方ないかなとも思うのですが、経済学者(やエコノミスト)が数字や統計の類を語らずに「精神」を語っているところに、残念なものを感じざるを得ないわけです。
下村治じゃありませんが、経済を語る者が成長路線を採るならば、少なくとも、成長の根拠となるべき統計を語れずに過去の実績や気持ちが大事的な話に終始すると、なんだか教祖様のあれような印象で。
奈良地裁:法廷イラスト禁止 「取材の自由を侵害」−−青山学院大・大石泰彦教授(毎日)
ボ2ネタから。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20101129ddm012040040000c.html
奈良同級生殺人事件(少年事件)の法廷で、裁判長(橋本判事)が法廷警察権ないし訴訟指揮の裁量権行使の一環として法廷イラストを禁止した問題について、大石教授の意見。
まとめると、裁判所による法廷イラスト禁止措置は、
・検閲に準ずる事前抑制であり、
・かつ、憲法上の保障が及ぶ筆記行為の自由に対する侵害にあたって違憲
ということのようです。
(1)まず、禁止措置の正当化根拠として、推知報道の禁止を規定する少年法61条を挙げ、この違反を否定。
少年法61条は少年と推知できるような報道を禁止しているが、朝日新聞が掲載したイラストは2点とも、少年の身元が分かるようには描かれておらず、少年法に反しているとは言えない。報道の自由の範囲であり、イラスト作製の禁止決定は、少年法違反を根拠にはできない。
(2)次に、裁判所の「指示違反」の主張は失当と。
奈良地裁は「『後ろからしか描かない』との指示違反」を挙げているようだが、そのような論理で表現の自由を制限することはできない。
(3)そして、裁判長の裁量にも限界があるとした上で、法廷イラスト禁止措置が憲法上禁止される検閲に準じて厳格な運用がされるべき事前抑制にあたるか否かは、「違法な報道がされる明らかな危険性や予見可能性の証明」の有無、で判断できると。
そもそも裁判官の訴訟指揮に関する裁量権も無制限ではない。過去に少年法に反したとして問題となった事例があるなど、違法な報道がされる明らかな危険性や予見可能性の証明がないにもかかわらず、裁判所が事前に示した報道条件に反したことを口実に法廷内でのイラストを禁止することは、表現の自由を制約するとして厳格な運用がされるべき「事前抑制」に当たる。
(4)また、上記(1)の少年法61条の解釈として、「推知報道」にあたるかどうかの判断は報道機関に委ねられていることを挙げ、これを理由として、法廷イラストの作成も法廷メモと同様に扱うことができる、すなわち、表現の自由(憲法21条1項)の精神に照らして尊重されるべき筆記行為の自由により保護される行為であると。
少年法61条は、身元が明らかになる報道かどうかの具体的な判断については、報道機関自身に任されていると解釈されている。イラスト作製は、法廷内でのメモと同様に自由だ。
(5)そのような憲法上の保障が及ぶ行為であるが、今回の裁判所による措置はこれを侵害するものであるので違憲であると。
報道機関に取材上の便宜を図るための条件であったとしても裁判所がアングルまで取材に関与するのはおかしい。今回の決定は取材、報道の自由を侵害する公権力の乱用だと言える。
日本経済研究センター短期経済予測(10年11月)
足踏みしている景気は来年度上期には輸出の持直しを機に再び回復基調に。
物価の下落幅は縮小。
が、需給ギャップ残存に、円高や賃金低迷が加わって、デフレ脱却ならず。(11年度経済見通しを下方修正。)
根拠等。
【予測の前提】
景気は年度内いっぱいは停滞を続けるが、景気後退は回避される。
∵・足元の生産調整は長引かない。
・ここまでの景気回復の余熱効果。
・5兆円規模の補正予算。
【下方修正の根拠】
(1)円高の実体経済へ及ぼす負の影響。
(2)最大の輸出先である中国の景気見通しの下方修正。
(3)企業の海外移転の加速。
その他、記事中で気になった点。
【中国関連】
・「ブレーキもアクセルもよくきく」中国経済も、「車両の重量」が増すことで、ききが悪くなっている。・中国景気は減速しているが、インフレは加速(賃上げ圧力)。インフレは低所得者の生活を困窮させる。
・元高阻止の為替介入が過剰流動性の一因になっている。
【国内関連】
・日本企業の海外移転。製造業は素材や中小の移転が進んでいる。これに小売や不動産も追随、邦銀も重い腰を上げ始めている。今回の景気回復局面では、雇用の過剰感が低下している割りに(国内)求人が伸びない。・日本企業は過剰債務などの不均衡を抱えていないので、世界景気の回復が続けば、輸出主導で景気回復(中国への一極集中ではなく、中国と結びつきの薄いインドの高成長)。
・雇用のしわ寄せは新卒と非正規へ。安定志向の親子間継承。受験戦争の低年齢化や企業家精神の後退。
とりあえず、今回も輸出産業促進を結論としたストーリーが展開されています。
しかし、これも打開策とはなりづらいかなと。上記にあるように、外需を見込んだ生産拠点の海外移転が続く以上、従来輸出産業とされていた分野に資金を投じても国内雇用の促進には当然には繋がらないというジレンマは否定しがたい(また、非正規短期雇用の無条件の拡大政策も、景気停滞時の社会に与えた負の影響の大きさから、もはや採りえないことは自明)。
経済のグローバル化、中間技術の海外流出が続く以上、中途半端な輸出政策はもはや無意味ではないかと思います。
民法やってて頭がこんがらがる
それは実力のない証拠だが、こんがらがった状態でも一定の解を示せるのが大人。
「起訴議決は無効」 小沢氏、あすにも提訴(産経)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101014-00000124-san-pol
民主党の小沢一郎元代表(68)の資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反事件で、東京第5検察審査会の起訴議決は「検察審査会法に違反し無効」などとして、小沢氏が15日にも、国を相手取った行政訴訟を東京地裁に起こすことが14日、分かった。小沢氏の弁護人が明らかにした。
とりあえず、やれることはやる、ということなのでしょうか。
旧行政訴訟法時代の裁判例で、検察審査会による不起訴相当の議決の取消訴訟が却下されたもの(東高判昭和42.11.21:請求を棄却した原判決を取り消した上、訴え不適法として却下)がありますが、どうでしょう。
その理由は、シンプルに言うと「議決の当否を判断する権限は裁判所にはない」というものです。
概略は以下のとおり;
・不起訴処分の当否に関する審査会の議決について取消訴訟を認めることは、裁判所が不起訴処分の当否について審査を行なうことに帰するから、そのような訴えは裁判所の権限に属しない事項を目的とするもので、許されない。
・裁判所が、不起訴処分やこれに関する審査会の議決の当否自体の問題に立ち入らないで、審査会の行なった調査が十分なものだったかどうかについて審査を行なうことは、不可能にちかい。
・不起訴処分の当否に関する審査を行なうにあたって、いかなる方法、程度及び範囲で調査を行なうかは審査会の裁量に委ねられた事項である。審査会の行なった調査が十分なものであったかどうかの点について審査することは裁判所の権限に属しない。
確かに行政訴訟法は新しくなりましたが、上記で挙げられている「裁判所の権限」については、その概念を変えるものではないように思います。
もっとも、記事では、処分取消しの理由として、1回目の起訴相当議決の際にはなかった犯罪事実(土地代金の原資となった小沢氏からの4億円を収支報告書に記載しなかったこと)が2回目の議決時に追加されており、結局この追加犯罪事実に限っていえば1回の議決しかなかったこととなるので、この点が検察審査会法に違反する、ということをあげており、これ自体はもっともな気もします。
しかし、仮にこの訴訟で議決が取り消されても、また議決が繰り返され、しかも今までの「宙ぶらりん」状態が継続してしまうわけで、それならばさっさと公判に移って無罪を勝ち取った方が小沢氏にとってはむしろよいのではないか、とも思います。