手形の電子化?


既に私が法律の勉強を始めた4年前から「消え行く学問分野」と陰口をたたかれていた手形法ですが、先ほど野村中大教授の「09年経済展望 中小企業の資金繰り対策」(日テレNews24)をみていたら、手形に代わる電子化債権、とかなんとかいうフレーズが出てきて、それは何か、と調べてみると。



電子記録債権法 電子化で手形の地位は復活するのか?」(「解決!法律塾」プレジデント 2008年8.4号)
http://president.jp.reuters.com/article/2008/11/18/88CD0206-AF9A-11DD-ABB5-17D73E99CD51.php

昨年6月に「電子記録債権法」が成立し、本年末までに施行される見込みとなった。これは、約束手形の欠点、すなわち、印紙税を負担したり手形用紙を保管するなどのコストがかかること、紙であるため、紛失や盗難のおそれが物理的に避けられないといった点を「手形の電子化」によって解消しようとするものだ。


一般に、商品を販売した際に発生する売掛代金債権などは、譲渡の手続きが煩雑であり、債権が円滑に流通しにくいうえ、原因となった売買契約が無効となれば、その売掛債権を譲り受けた者が思わぬ損害をこうむるリスクがあった。

さらには、債権の決済が滞った場合の取り立て手続きは、通常の民事訴訟によらなければならず、決して使い勝手がいいとはいえない。

約束手形は、そうした問題点を一括して解決してくれる便利なツールとして、企業活動を中心に広く利用されてきたが、電子化への対応が遅れ、送金決済の流れに押されがちであった。


ざっくりいうとこういうことだが、要は手形は企業金融のツールとして流通することを前提に制度化されたものだけれども、金の払い手(主に大企業)の管理コストがバカにならないため、送金決済へ移行する払い手が多かったのだが、これだと支払遅滞リスクを金の貰い手たる売掛代金債権者(主に中小)が負担することになり、また手形割引のような形で現金化して急場の資金調達ができない、という不都合があった。そこで、ということらしい。

電子手形の仕組み手形のデジタル化は、コストや安全面以外でも、さまざまなメリットが期待されている。たとえば、債務者ないし債権そのものに関する多様な情報が電子データで供用されることによって、早期かつ低コストの与信が実現される点も、メリットのひとつだ。これは、任意的記載事項として債務者のさまざまなデータがデータベースに掲載可能となっているため。たとえば金融機関のシンジケートローンの円滑化のために活用されることも想定されている。


このようないいことずくめの手形電子化だが、いままで導入されなかったのにはそれなりに理由がある。つまり初期投資コストの問題と費用対利益の問題である。

もっとも、導入に際しての課題も少なくない。まず、そもそも電子記録債権法が施行されたところで、前述の電子債権記録システムが実際の運用を開始しなければ、誰も電子手形を利用できないわけだが、そのシステム導入のための初期コストは、40億〜80億円にのぼるというのが経済産業省の試算だ。しかも、しばらくは移行期間として、従来の手形交換所を併存させて運営する必要があるだろう。


加えて、現時点で手形の利用が減少傾向にある中、巨額のコストを投じてまで、その電子化にこぎつける必要がどこまであるのだろうか。大企業は手形の管理コストを嫌い、銀行との取引実績を重ねるべく、口座間の送金決済を利用する形態が浸透している。中小企業においては、手形払いで支払いサイトを享受するメリットよりも、自社のイメージアップや仕入れ先からの値引きのため、現金払いに活路を見いだすケースが増えているようだ。


というわけで現状、先の番組での野村教授のコメントのようには、すんなり解決する問題ではないらしい。そう考えると、手形というのは依然として「消え行く学問分野」というトレンドにあることに変わりはなさそうである。