「『小さく産んで...』は正解か」(1/12日経経済教室:大竹文雄)


妊娠子育ての話。筋としては「不正解」という。

大竹阪大教授による、研究トレンドの紹介。副題は「不健康や低所得招く:「貧困の連鎖」回避の方策を」。


以下、大約。

・出生時の低体重→成人時の生活習慣病の傾向。低体重の一因となる胎児期間の栄養不足により、飢餓状態に耐えられるよう脂肪を蓄えやすく体質がプログラムされ、出生後の「飽食」により肥満へ。英サウサンプトン大学バーカー教授の研究(提言自体は20年以上前から)。


・上記の問題は昨年、日本学術会議臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同生活習慣病対策分科会でも指摘されている(欄外参照)。


・出生時体重が軽いことと、注意欠陥・多動性障害の発生率の高さ、教育水準の低さ、低所得などの間に相関がある。全米経済研のワーキングペーパーとして08年米コロンビア大カーリー教授が展望論文の中で多くの研究を紹介。


・ただし、低出生時体重とその後の所得や教育水準などについての因果関係は明らかではなく、これを明らかにしようという研究が急速に進んでいる(米カリフォルニア大ロス校のブラック教授は双子の研究から推定)。


・上記の研究が正しいとすれば、昨今の日本の出生時体重の低下は将来、日本人の健康面のみならず経済面でも深刻な影響を引き起こすこととなる。


・米シカゴ大のヘックマン教授の実証的研究によれば、就学後の教育の効率性を決めるのは、就学前の教育にあり、特に出生直後の教育環境が重要であるとのことであり、同教授は、就学前の貧しい子どもたちへの教育投資は、効率性と公平性を両立させる稀有な政策であると指摘している。上記に紹介してきた研究によれば就学前に留まらず、出生前の栄養状態が大人になってからの健康状態や経済状態に重大な影響を与えていることを示しており、出生前の医療や経済的援助も、就学前の教育投資と同じ効果を持つことが予想される。


参考:
日本学術会議臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同生活習慣病対策分科会「提言:出生前・子どものときからの生活習慣病対策」(PDF)

この提言によれば、いわゆる低出生体重児とは2500g未満をいう。また、日本における出生時体重は2006年の男児で3050g(80年で3230g)、女児で2960g(80年で3160g)とのことである。このような低体重化は多胎の増加の影響もあるが、主に産科医による過度の栄養制限指導や、女性の過度のダイエット志向による、とされている。