輸出対GDP比率について


ボ2ネタに、「今の不況は『輸出バブルの崩壊』」なんちて文藝春秋3月号の記事を紹介するエントリがあり、

日本経済は決して外需依存ではないそうです(輸出の対GDP比率は20%以下で先進国の中ではかなり低い)。

特に,90年代までは,「純」輸出の対GDP比率は1%程度で,これが,2002年からの「輸出バブル」で5%にまでふくらみ,この間,史上最長の景気が持続したが,この4%分のバブルが,昨年はじけたそうです。

などとお書きになられてますが、ネタ元の記事は三橋貴明氏あたりでしょうかね?(確か最近の経済教室にも同種の記事を書いていたような...)



この説だと、まず「外需依存率=輸出対GDP比率」というのが大前提ということになりますが、この「輸出対GDP比率」が何かを知らないとこの大前提は認められないはず...
ということでこのキーワードでググってみると、何故か説明するページがない...しょうがないので検索上位にくるページを見てみると、なんと、このブログでたびたびご登場頂いている原田泰氏の記事が。ここは再びご登場願おう。



BizPlus:コラム:原田 泰氏「経済学で考える」
第46回「輸出はそんなに大事なのか」(2006/07/03)

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/harada.cfm?i=20060629c3000c3

 日本経済は輸出に左右されると考えている人は多い。中国や米国の経済が失速すれば、日本は大不況に陥ると考えている人もいる。中国の急激な経済発展がもたらした日本の対中輸出の激増が、デフレに悩む日本を救ったと考えている人さえいる。

論者の公平のために言えば、この記事は古い。ので、これを今や疑う人はいないわけだが、それはひとまず置く。
問題は、あくまで「輸出対GDP比率」である。
で、読み続けると、

日本の国内総生産GDP)に占める輸出の比率はせいぜい15%で、この比率は長期的に2−3%ポイント上がったにすぎない。おそらく多くの人が思っているよりも、輸出のウエートは小さいのではないだろうか。対中国輸出のGDPに占める比率は、当然ながらさらに小さく、2%余りである。

これはボ2ネタ紹介の記事と同旨かと思う。
重要なのは以下の部分。

 では、15%の輸出部門が日本経済をどのように動かしてきたのだろうか。売り上げ(輸出)がいくら伸びても、同時に原材料や部品の購入費(輸入)が伸びたのでは少しももうからない。海外部門がGDPに与える影響を考えるときには、当然、輸出と輸入の両方を考えないといけない。GDPとは国内で生産したものをすべて足し合わせたものだから、輸出は足すが輸入は引く。車を売って車を買えば、差し引きしないと、国内でネットで生産した分にならない。差し引きしたものは純輸出と呼ばれる。

つまり、GDP=国内総生産を考える時は、輸出と輸入の差し引きで考える。単純に考えて、輸出額が増えた分輸入額が増えれば、この純輸出(正確には、国民所得統計上「財貨・サービスの純輸出」と呼ばれている)はまるで変わらないことになる。


原田氏のコラムではこの後、日本の実質GDPの前期比伸び率とそれに対する純輸出の寄与度を図で示し、これらの相関関係が薄いことを指摘している。


要は、この輸出対GDP比率や純輸出の実質GDPへの影響を語ることにそんなに意味はない、ということか。



で、原田氏は日本経済における輸出依存傾向というイメージについて、結論として、以下のように述べる。

その理由は、自動車、電機機械など特定の大きな産業が輸出に依存しているので、そのような産業を見れば、輸出が重要であるというイメージを持つからだとしか解釈のしようがない。日本人は子供のころから「日本は資源のない国だから、輸出をしなければ立ち行かなくなる」と教えられてきたことも影響しているのかもしれない。

要は、印象論に過ぎない、というわけ。で、要は残り85%の内需部分の生産性を上げることが国民の生活水準を上げるために必要、としているが...


じゃあ、今日本で起こっているネガティブな現象(四半期でみたGDP急落、雇用悪化、景気減速など)はどう説明されるのか?と考えると、犯人探しじゃないが、非正規雇用を単純に増やした挙句にぶった切った輸出部門企業の存在がでかいのは確か。
思うに、この種の経済構造の話は、単純な経済統計の数値だけでは語れず、その経済統計の数値がどんな要素を含むかを考えなくてはならないし、結局のところその分析対象となる経済の構造そのものを措定しないと何も語れないのではないか、などと思ってみたり。